「いちばんの自分になる」とは — 私が教育でいちばん大切にしていること

こんにちは、坂本七郎です。このたび、この場所で新しくコラムを書いていくことにしました。第1回となる今日は、私が教育について考えるとき、いつも真ん中に置いている一つの言葉についてお話しさせてください。それは「いちばんの自分になる」という言葉です。

「うちの子は、周りの子と比べてどうも遅れている気がして……」。保護者の方とお話ししていると、こうした"比較"の悩みを本当によく耳にします。テストの点数、通知表、まわりの子の進み具合。気になり始めると、きりがありません。一人の親として、私自身もその気持ちはよく分かります。

けれど私は、教育のいちばん大切なゴールは、誰かに追いつくことではないと考えています。だからこそ、このコラムの第1回では、私がいちばん大事にしているこの言葉について、じっくりお話しさせてください。

「いちばんの自分になる」とは、どういう意味でしょうか?

私が大切にしているのは、誰かと比べて一番になることではありません。その子自身の内側から育っていく「いちばんの自分」に近づいていくことです。

どの子の中にも、「好き」「得意」、そして「嫌い」「苦手」があります。私はまず、その子の「好き」を入り口にして学びを深めていくことを大切にしています。

たとえば、電車が好きな子がいたとします。時刻表や路線図を眺めるうちに、日本の地理にくわしくなる。駅名の由来が気になって、歴史を調べ始める。所要時間や運賃を計算するうちに、算数の力がついていく。好きを深掘りすると、その先で新しい切り口が見つかり、別の興味が生まれる。そこにまた力を注ぐ。この小さな循環をつなげていく——その先にあるのが、その子にとっての「いちばんの自分」だと、私は考えています。

他の誰かと同じゴールを目指すのではなく、一人ひとり違っていい。むしろ違うからこそ意味がある。これが、私の教育観の出発点です。

ここで大切にしていること

比べる相手は「周りの子」ではなく、「昨日のその子」。一人ひとり違うゴールへ向かって進んでいく——これが「いちばんの自分になる」の出発点です。

なぜ「好きなことだけ」では足りないのでしょうか?

ただ、ここで一つ誤解を避けたいことがあります。私は「好きなことだけやらせておけばいい」とは考えていません。好きを伸ばすだけでは、「いちばんの自分」には届かないと思っているのです。

勉強でも習いごとでも、続けていれば、苦しい場面や退屈な時期は必ずやってきます。そこで投げ出さずに向き合う忍耐力と、その辛さの中に楽しさを見つけていく柔軟性。この二つがあってはじめて、その子だけの人間的な深みが生まれます

私自身の話をさせてください。社会人1年目、塾講師として働き始めた頃、私は先輩講師のコピー取りをよく頼まれていました。正直、本当につまらない仕事に感じていました。ところが、「いかに素早く、いかに丁寧にコピーを取るか」を追求する視点に切り替えたとたん、その作業がとても楽しくなったのです。

勉強もこれと同じだと思うのです。一見つまらなく見える中にも、工夫しだいで楽しさを見つけられる要素はたくさんあります。辛いことの中に「自分なりの楽しさ」を見つけ出せる目は、勉強に限らず、人生を通じて何かを続けていく力に直結します。私はこの視点を、子どもたちに持たせてあげたいと願っています。

そしてもう一つ、大切にしていることがあります。「いちばんの自分」は、自分のためだけのものではない、ということです。身につけた力で身のまわりの人を助け、誰かの役に立てたとき、その学びははじめて本当の意味を持つ——私はそう考えています。感謝の気持ちや思いやりを土台に置くこと。これも、私が教育で外せないと思っている部分です。

なぜ、これからの時代にこそ大切なのでしょうか?

AIが多くの答えを瞬時に出してくれる時代になりました。こういう時代だからこそ、「みんなと同じ」ではなく「その子だけの」強みを育てる意味が、ますます大きくなっていると感じています。

AIは、誰が使っても似たような"最適解"を返してきます。だからこそ、これからの子どもたちに育ってほしいのは、その一歩先を考える力です。自分の考えを自分の言葉にする力、答えが一つに見える場面でも「他のやり方はないかな」と問い直す力。そして、さまざまな体験の幅が、そのままその子の独自性の幅になります

こうした力はどれも、「好き」を入り口に世界を広げていく中で、少しずつ育っていくものです。「いちばんの自分になる」という考え方は、これからの時代を生きる子どもたちにとって、ますます大切な軸になっていくと、私は信じています。

家庭で、今日からできることはありますか?

とはいえ、「いちばんの自分」などと言うと、少し大げさに聞こえるかもしれません。でも、特別な教材や準備はいりません。私は、毎日のほんの小さな声かけから始められると考えています。たとえば、次の三つです。

  • 1「もっと、やっていいよ」——好きなことに夢中になっている時間を、途中で止めない。「もう少しやりたい」というその気持ちこそが、「好き」を深める循環のいちばんの入り口になります。
  • 2「他の解き方は、ないかな?」——答えをすぐに教えるのではなく、考える角度を増やしてあげる。一つの正解にたどり着く道は、決して一つではありません。少しの回り道こそが、その子の考える力を育てます。
  • 3「今日読んだ本、どんな話だった?」——本と対話する時間を、毎日の暮らしの中にそっと置いておく。読んだ話を自分の言葉で説明してみることで、これからの時代にいっそう大切になる言葉の力が育っていきます。

どれも、今日から、お金をかけずに始められることばかりです。

そして最後に、私が5,000人以上の子どもたちと関わってきて、心から確信していることをお伝えします。

「学力が伸びない子」はいません。やり方を、まだ知らないだけ。

適切な方法と、信頼できる先生に出会えれば、どの子も必ず成長できます。私はこの30年近く、そのことを何度も目の当たりにしてきました。お子さんの伸びしろは、今の点数だけでは測れません

まとめ — このコラムで伝えていきたいこと

このコラムでは、「いちばんの自分になる」に近づくための考え方や、ご家庭で試せる小さなヒントを、私自身の言葉で綴っていきます。教育の正解を押しつけるのではなく、お子さんを見るときの視点を、一つずつ手渡していけたらと思っています。

私が代表を務めるオンライン家庭教師「まなぶてらす」も、まさにこの「好き」を入り口に学びを深める場として育ててきました。勉強のやり方や子育ての考え方については、これまで著書でもお伝えしてきましたので、あわせてご覧いただけたら嬉しいです。

これからどうぞよろしくお願いいたします。次回もぜひ、お付き合いください。

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