みんなと同じ物差しで一番を競わない——マイケル・ポーターの競争戦略から考える、子どもの「強み」の育て方

坂本七郎

坂本七郎

こんにちは、坂本です。学習相談の場で、「うちの子は、どれも平均くらいなんです」という言葉をよく耳にします。テストの点、通知表、模試の偏差値。同じ物差しで比べ続けるうちに、親も子どもも「特に取り柄がない」と感じてしまう。今日は、経営学のある考え方を手がかりに、この物差しから少し離れてみるお話をします。

子どもが「どれも平均くらい」に見えるのは、なぜでしょうか?

それは、子どもに取り柄がないからではありません。ほぼ全員が、同じ物差しの上で比べられているからだと、私は考えています。

学校では、同じ学年の子どもたちが同じ内容を学び、同じテストを受けます。結果は点数や順位で返ってきて、その先には中学受験、高校受験、大学受験と、同じ形の競争が続いていきます。物差しが一本しかない場所では、上位にいる一握りの子を除くと、多くの子どもが「真ん中あたり」に並びます。

そして子どもは、その位置をそのまま自分の値打ちだと受け取りがちです。「クラスで何番だったか」が、いつのまにか「自分はどんな人間か」の答えになってしまう。私はこれが、子どもの自信が育ちにくい大きな理由のひとつだと感じています。

経営学の「競争戦略」は、何を教えてくれるのでしょうか?

ひとことで言えば、みんなと同じことをより上手にやるだけでは、周りから抜きん出ることはできない、ということです。

ハーバード大学の経営学者マイケル・ポーターは、1996年に発表した論文「What Is Strategy?(戦略とは何か)」(Harvard Business Review)で、二つのことをはっきり分けました。ひとつは、ライバルと同じ活動を、ライバルより上手に行うこと。もうひとつは、ライバルとは違う活動を選ぶこと、あるいは同じ活動を違うやり方で行うことです。ポーターは、前者の改善は欠かせないものの、それだけでは戦略とは言えない、と述べています。

理由はこうです。どの会社も同じお手本をまねて改善を重ねると、会社どうしがだんだん似てきます。全体の水準は上がっても、誰も相手より抜きん出ることはできません。全員が少しずつ速く走るようになっても、順位はほとんど変わらない、という状態です。

ポーターと長く仕事をしてきたジョアン・マグレッタは、入門書『〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房)の中で、この考え方を、一番を目指す競争と、独自性を目指す競争の違いとして整理しています。全員が同じ一番を目指せば、互いに疲れてしまう競争になる。だから自分だけの位置をつくる。これが競争戦略の出発点です。

「上手にやる」ことが不要なのではありません

ポーターは、同じ活動をより上手に行う努力は必要だが、それだけでは足りない、と言っています。子どもに置き換えれば、基礎の勉強はきちんと積み上げる。そのうえで、その子だけの位置をどこにつくるかを考える、ということです。

同じ物差しの上では、なぜその子の良さが見えにくくなるのでしょうか?

ほぼ全員が同じ内容を学び、同じテストで点数を競うからです。経営の言葉を借りれば、教育や子育ての場は一種の過当競争で、全員が同じ道を同じ速さで走っているような状態に近いと私は思います。

このような場では、その子ならではの良さが目立ちにくくなります。どれだけ頑張っても、同じことを頑張っている子が周りにたくさんいるからです。点数が少し上がっても、周りも同じように上がれば、順位は変わりません。順位だけを見ていると、努力が報われている実感を持ちにくく、自信も育ちにくくなります。もちろん、順位が変わらなくても、学んだことは確かにその子の力になっています。

誤解のないように書いておくと、私は受験やテストを否定したいのではありません。勉強を積み上げることは大切ですし、受験に向けて努力する子どもを、私は心から応援しています。ただ、その一本の物差しだけで子どもの価値を測ってしまうことには、注意が必要だと考えています。

「好き」と「得意」を掛け合わせると、なぜ自信につながるのでしょうか?

一つの分野で育った自信は、ほかの分野に取り組むときの土台になることがあります。「自分にもできることがある」と知っている子は、苦手なことにも向き合いやすくなると、私は多くの子どもを見てきて感じています。

大切なのは、その「自信を持てる分野」を、みんなと同じ物差しの上で探さないことです。ここで競争戦略の考え方が役に立ちます。ポーターは、会社の独自性は一つの強みだけでなく、いくつもの活動がかみ合って組み合わさることから生まれ、その組み合わせはまねされにくいと考えました。

ここからは私なりの置き換えですが、子どもに当てはめると、「好き」と「得意」の掛け合わせになります。たとえば、電車が好きな子は大勢います。地図を読むのが得意な子も、珍しくはありません。けれども、電車が好きで、地図を読むのが得意で、人に説明するのが楽しいという子になると、ぐっと少なくなります。一つひとつは平凡に見えても、重なったところには、その子だけの位置が生まれます。

以前、子どもの得意・苦手を白黒ではなくグラデーションで見る、というコラムを書きました。濃淡の模様が一人ひとり違うということは、掛け合わせの答えも一人ひとり違う、ということでもあります。

同じ物差しの上で一番になれなくても、その子だけの位置は、どこかにあります。

家庭では、どんなことから始められるでしょうか?

特別な準備はいりません。私がおすすめしたいのは、次の3つです。

  • 1順位より、夢中になっている時間を見る——何番だったかではなく、何をしているときに時間を忘れているかに目を向けます。そこに「好き」の芽があります。
  • 2「好き」と「得意」を別々に書き出してみる——好きなことと得意なことは、同じとは限りません。親子で書き出して並べ、重なるところや組み合わせられそうなところを探してみてください。
  • 3比べる相手を、少し前のその子にする——隣の子との比較ではなく、半年前のその子と比べて何ができるようになったかを言葉にします。ほかの子を物差しにしないことが、その子だけの位置を育てる第一歩です。

まとめ——同じ物差しの上だけで、一番を争わなくていい

ポーターは、みんなと同じ一番を目指すより、自分だけの位置をつくるほうが長く強くいられる、と考えました。会社と子どもはもちろん違いますが、私はこの考え方が、子どものよさを見るときのヒントになると思っています。

テストの点を上げる努力は、これからも大切です。そのうえで、この子の「好き」と「得意」は、どこで重なっているだろうと眺めてみてください。そこで育った自信は、やがて勉強にも、苦手なことに向き合う力にも広がっていく。私はそう考えています。

私が教育でいちばん大切にしている「いちばんの自分になる」という考え方も、同じところから出発しています。誰かと比べた一番ではなく、その子自身の「いちばん」を。一人ひとりの位置は、ほかの誰とも違うのですから。

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