2026.08.03
「うちの子は漢字が苦手」と決める前に——「できない」の正体は、やり方かもしれない
こんにちは、坂本です。学習相談の場で、いちばん多く聞いてきた悩みのひとつが漢字です。「うちの子は漢字が本当に苦手で。漢字ノートに毎日1ページ書いているのに、テストになると書けないんです」——今日は、この「書いているのに覚えられない」の正体と、私がたどり着いたひとつの答えについてお話しします。
毎日書いているのに、なぜ覚えられないのでしょうか?
多くの場合、原因は努力不足でも記憶力でもありません。「書く練習」と「覚える練習」が、そもそも別物だからです。
漢字ノートに同じ字を10回書く。真面目な子ほど、きちんとやります。ところが、手が動いているあいだ、頭は必ずしも漢字を見ていません。3回目あたりから書き取りは「作業」になり、頭は別のことを考えはじめます。手は疲れるのに、記憶には残らない。これが「毎日書いているのに覚えられない」の正体です。
私はこれまでの相談の中で、漢字ノートを前にして親子で苦しくなってしまったご家庭の話を、何度も聞いてきました。子どもは怠けているのではありません。むしろ真面目に、効果の薄い方法をやり続けている。ここに気づいたとき、変えるべきは子どもではなく、方法のほうだと思うようになりました。
書き取りが「作業」になった瞬間、時間だけが消えていきます。覚えるためには、書く回数よりも「思い出そうとする瞬間」を何回つくれるかが大切です。
「見るだけで覚える」なんて、本当にできるのでしょうか?
できます。ただし、ぼんやり眺めるのではなく、短い制限時間の中で「テスト」と「暗記」をくり返すのが条件です。
私が2012年にブログで公開して以来、提案し続けてきた方法は、とても単純です。答えを隠して1分間テストをする。間違えた漢字だけを書き出して、30秒間じっと見て覚える。もう一度テストする。全問正解になるまで、これをくり返すだけ。書いて覚えるのではなく、「思い出す練習」を短い集中でくり返す方法です。
公開した年に、メルマガ読者のご家庭85人(小3〜小6)に協力してもらった実測では、子どもたちが漢字10問を覚えるのにかかった時間は平均2分43秒でした。この方法は朝日新聞の教育サイト「EduA」でも紹介していただき、のちに漢字問題集などの著書にもまとめました。公開から今までに届いた実践報告は1,100件を超えています。やり方は「[さかもと式]見るだけ暗記法」の公式ページで、実演動画と無料の練習プリントつきで公開していますので、興味のある方は試してみてください。
学力が伸びない子はいない。やり方をまだ知らないだけ。
これは、私が指導の中で確信してきたことです。「見るだけ暗記法」で初めて全問正解した子は、たいてい少し驚いた顔をします。「自分は覚えられない」と思い込んでいた子ほど、その驚きは大きい。方法がひとつ変わっただけで、「できない子」が「できた子」になる。その瞬間を、私は何度も見てきました。
書いて覚える練習には、意味がないのでしょうか?
そんなことはありません。書く練習には、書く練習の役割があります。
とくに小学1〜3年生のうちは、漢字の形を手に覚えさせていく時期です。とめ・はね・はらいを確かめながらていねいに書く練習は、この時期の土台になります。見るだけ暗記法をおすすめしているのは、基本の漢字が手に馴染んできた小学4年生以上。つまり「書くか、見るか」の二択ではなく、学年と目的によって、練習を使い分けるのが答えです。
問題なのは、書くこと自体ではなく、「覚えるため」の練習がぜんぶ書き取りになってしまうことです。覚える工程には思い出す練習を、形を身につける工程には書く練習を。役割を分けてあげるだけで、同じ練習時間がずっと濃くなります。
漢字にかぎらず、「できない」に出会ったら何を疑えばいいでしょうか?
子どもの才能や性格を疑う前に、いま使っている方法を疑ってみてください。
漢字は一例にすぎません。計算が遅い、作文が書けない、理科や社会の用語が覚えられない——どれも「向いていない」のではなく、その子に合うやり方にまだ出会っていないだけ、ということがよくあります。大切なのは、学力を伸ばすという目標は同じでも、そこへ至る道はひとつではない、と知っておくことです。以前、「2科目受験」という道もあるという記事で、受験そのものにも複数の道があるというお話をしました。教科の学び方も、まったく同じです。
ご家庭では、こんなふうに関わってみてください。
- 1「なんで覚えられないの?」を「やり方を変えてみようか」に——原因を子どもの内側ではなく、方法に置く言い方に変えます。責められない分、子どもは次の一歩を出しやすくなります。
- 2小さく試す——漢字なら10問・3分ほどで試せます。うまくいったら続け、合わなければ次の方法へ。方法選びは「実験」くらいの気軽さでかまいません。
- 3できた瞬間を言葉にする——「今のやり方、合ってたね」。結果を方法と結びつけてあげると、子どもは次も自分でやり方を工夫するようになります。
まとめ——今日、ひとつだけ変えるなら
子どもの「できない」の正体は、子どもの中ではなく、方法の中にあることが多い。私はそう考えています。
もし4年生以上のお子さんが漢字で悩んでいたら、今夜、10問だけ試してみてください。かかる時間は3分ほどです。そして漢字がうまくいったら、ほかの「できない」にも同じ問いを向けてみてください。「この子に合うやり方は、ほかにないだろうか?」——その問いを持つだけで、子どもへのまなざしは少しやわらかくなるはずです。